トイレの壁にはめ込まれたウォシュレットのボタンを押した瞬間にどかんという音がして、気づくと屋根を突き破って周りの家が小さく見えました。足下では「+」のボタンを54個越えたところまで赤いバーが伸びていてなるほどと思いました。お尻は痛くありませんでした。地球の青い大気が見えてきて周りは夜と星空でした。空気が薄くて怖かったけど慣れたら平気で、どうやらぼくは宇宙飛行士の才能があったみたいでした。でもそれならトイレしたあとのお尻丸出しのときじゃないほうがよかったな。そしたらマシュマロみたいな宇宙服を着た人たちが重すぎて動けないし火だるまになりながら落ちていて、ああやっぱりぼくはお尻丸出しで良かったなと思いました。

地球に戻らなきゃと思ったのですがめんどくさくなって、それは無重力空間がふわふわで意外と気持ちよかったからです。足を動かしても空は歩けないのですが、ウォシュレットのときに刺さったお水がお腹の中に溜まっていてそれは口からもお尻からも出てエンジンの代わりになりました。遠い星から隕石が降ってくるのでそれにぶつかったらいけないのです。

しばらくふわふわ漂っていたのですがやがて楽しい形の星の並びを見つけたのでぼくはその中のもっともらしい場所に入ることにしました。ギラギラしたところのない優しいひとたちでした。でも地球の展望台からは新しい星座ができていて名前は「ウォシュレット座」だったらいいなと思いました。みんなもどことなくそれを欲してそうで、だから隊列を組んで回り続けているのです。展望台からは北極星を中心に回転する規則正しい星の線が1つ増えていたらいいなと思いました。でも回りながらウォシュレットでもらった水を口から吐き出したら生身の消化管の中に詰まっていた多様な状態の吐瀉物や排泄物の味がして、ああこれは昨日食べたシチューやオムライスなのだなと思いました。